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ココヒト2017.3.30

デヴィッド・ボウイの大回顧展「DAVID BOWIE is」日本展の立役者、ソニー・ミュージックエンタテインメントの小沢暁子さんにインタビュー

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現在、ソニーミュージックグループでは、ニュービジネスとして、イベントやミュージアムを運営する「エキシビションビジネス」に力を入れていますが、その中でも1、2を争うほど大規模な展覧会となった「DAVID BOWIE is」が2017年1月8日(日)から4月9日(日)まで品川・寺田倉庫G1ビルにて開催されています。2013年にイギリス・ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(以下、V&A)で開催されて以来、全世界9都市を巡回し、現在までに全世界で160万人以上の動員を記録していますが、アジア唯一の開催国となったこの日本展を招致したのは、ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME) 海外事業推進グループGマーケティングルーム チーフプロデューサーの小沢暁子さん。現在、ソニーミュージックグループのNYオフィスに駐在しています。今回の「ココヒト」では、小沢さんに焦点を当て、大ヒット中の「DAVID BOWIE is」の魅力や開催への想いを語ってもらうとともに、小沢さんの仕事への情熱や想いをお話ししてもらいました。

 

 

 「DAVID BOWIE is」を日本で開催するに至ったきっかけ


「DAVID BOWIE is」は2013年にロンドンで始まりました。出張の際に観に行ったのですが、あまりにも素晴らしくて何回も通ったんです。最終的に5回通って、これは日本に持って行くべきだと強く思って。そこで、当時の上司に「日本に持ってきたい、交渉していいですか?」と聞くと、「はい、どうぞ」と。“行けるところまで行ってこい”みたいな、うちの会社はそういうところがあって(笑)。でも、簡単に「持ってくる」といってもどうすればいいのかわからなかったので、デヴィッド・ボウイの長年のパブリシストでいらしたアラン・エドワーズさんからV&Aの担当者を紹介してもらい、大至急訪ねて行きました。すると「(この展覧会を)日本に持って行きたいとは思っているんですよ・・・」と言いながらも、海のものとも山のものとも知れない私の持ち掛けです、当然「いやいやいや、すぐに『ウン』とは言えないよ」と。……やっぱり探ってきますよね。「どうやってやるんですか? 美術館はお持ちではないですよね?」「はい、持っていません」みたいな(笑)。でも、その時に話の矛先をちょっと変えて「実は、デヴィッド・ボウイがソニーミュージックに移籍した時の日本の担当ディレクターだったんです」とお話をして、「ご本人にも会ったことがあるんですよ!」なんて当時の逸話を話すと、「ええ!? 僕たちも会ったことがないのに!」となり、ちょっと和む、距離が縮まる、みたいな(笑)。とにかく最初はそんな感じで、そこから先もクリアしなければならないことはまだまだたくさんありましたが、無事招致できることとなりました。

 一般公開に先立って行われた内覧会には約550人が来場し大盛況に

 デヴィッド・ボウイとのエピソード


2000年代初頭、私はソニーミュージックグループの洋楽レーベルでディレクターをしていたのですが、デヴィッド・ボウイが『Heathen』※1というアルバムをリリースするタイミングでソニーミュージックへ移籍してくるという連絡が入ったんですね。いやもう、まさかこんな日が来るとは思ってもいませんでした。デヴィッド・ボウイは私が子どもの頃からのアイドルのひとりで、仕事と関係なくずっと聴いてきたアーティストでした。なので、新譜の担当になった時は、彼のキャリアの一部のために働けるということに素直に感謝して、このアルバムのためにできることはなんでもやらなければと改めて焦ったのを覚えています。『Heathen』をリリースするにあたり、取材をしたい!という話になるのですが、当然、取材はできないんです。スーパースターなので。インタビューをしたい、写真を撮りたい、というような普通のメニューをリクエストしても、「どの国もからも同じリクエストが入っており、日本独自取材の可能性はない」との冷たい返答が入るばかり。考え得るすべての策にNGを喰らった後、思いついたんです! もしかしたらアルバム『Heroes』※2などの写真を手がけた写真家の鋤田正義(すきたまさよし)さんでフォトセッションをリクエストしたらOKが出るのではないかと。「SUKITAでフォト・セッションをしたい、30分でいいから時間がほしい」とリクエストすると、なんと翌日に「ボウイがOKって言ってる」と驚いた感じで連絡が入ってきたんです。さらに「ボウイがかなり楽しみにしているようだ」とも! 「えーーー!?!?」でしたね。それで、世界で日本のみ、撮り下ろしの取材が実現することになったんです。結果、この素晴らしい写真は、その後の『Heathen』の宣伝のために全世界での使用が決定しました。
 
 

鋤田正義さんが撮影したアルバム『Heathen』宣伝用アーティスト写真

 

最初は「SUKITAの写真撮影30分だけ」と言って時間をもぎ取ったものの、いざできるとなると欲張って、最終的には映像の取材時間も奪取(笑)。デヴィッド・ボウイは、新譜の話から昔の話まで、何でもニコニコと話してくれました。最後にファンへのメッセージをお願いすると、たいていのアーティストならば「日本のみんな、愛してるよ」とくるのですが、デヴィッド・ボウイは少し考えた後にカメラを覗き、「Happy Birthday」とにっこり。続けて「This is Uncle Dave saying "Happy Birthday" to you all.Whenever your birthday is, if you keep this tape and play it every day, one day it'll be your birthday and you'll be able to say "Uncle Dave guessed my birthday! It's incredible".(デイヴおじさんからみんなへ”お誕生日おめでとう”。このメッセージを毎日流し続ければ、いつか必ずきみの誕生日に当たるよ。”デイヴおじさんが祝ってくれた!”と喜んでくれるかな。)」と、とびきりお茶目なメッセージをくれました。なんだかわからないけどジーンとして。私が長いこと勝手に妄想していた素敵なデヴィッド・ボウイのイメージを、ご本人は悠々と超える方でした。今回の展覧会は彼の誕生日から始まるし、展覧会にいらっしゃる方にもう一度この貴重な映像を観せてあげられたらいいなと思って本国に交渉して、展示フロアの最後で観ていただけるようにしました。開催期間が1月8日から4月9日なので、その間にお誕生日の方はこちらにいらっしゃるとデヴィッド・ボウイが「お誕生日おめでとう!」って言ってくれるのでスペシャルな誕生日になりますね。これは日本だけです。

※1 『Heathen(ヒーザン)』 2002年、デヴィッド・ボウイのソニーミュージック移籍第一弾作品。盟友トニー・ヴィスコンティが共同プロデュース、カルロス・アロマー、ピート・タウンゼントなどがゲスト参加した傑作。

 ※2 『Heroes』 1977年発表の12thアルバム。アルバムと同タイトルでデヴィッド・ボウイの代表曲のひとつでもあるシングル「Heroes」を収録。ジャケット写真は鋤田正義さんが手掛けている。



「DAVID BOWIE is」の魅力


この展覧会は、デヴィッド・ボウイがどれだけすごいアーティストだったのかを誇示したり褒め称えたりするものではまったくないんですね。ひとりの人間がその人生でここまで到達できるのだという、その可能性を全部見せてくれる大回顧展です。私がロンドンで何度もこの展覧会を観に行ったのは、ただ(デヴィット・ボウイを)好きであることを確認しに行くというより、自分が好きになった理由や好きであり続けている理由の裏側を知るために行っていたような気がします。そもそも、カッコよくて曲が素晴らしくて好きだったから足を運んだ……くらいだったのかもしれないけど、この展覧会でひとりの人として到達できるクリエイティブのすべてを見せられて、感動という言葉では言い表せない気持ちが沸き上がってきたんですよね。もちろん、単純にいいものを、きれいなものを観るつもりで行くんですけど、この展覧会は「あなたがこの世界にいる理由はあるんだよ、それは君がわかっているんだよ」と、この世に存在すること自体を肯定してくれるような気持ちにさせてくれるんです。それはつまるところ、ひとりの人として、あなたの人生はどう生きてもいいんだよという、哲学のようなメッセージですね。しかも、いわゆる一般的な基準から圧倒的に外れていたとしても、それを活かすことができる可能性を全部持っているということを彼自身の生き方によって示してくれているんです。突飛なことを考える時、なんか躊躇するじゃないですか、他人からの視線とか考えると二の足を踏んだり。でも、そんなことハッキリ言ってどうでもいいことだ、みたいな。あれだけのものをずらーって並べられると(笑)。普通に生活していたとしても誰かから大丈夫って言ってもらうとか、進むべき道は合ってるよって背中を押してもらうとか、人生の中でそういうことが必要な瞬間って何度もあると思うんです。それを「DAVID BOWIE is」は、家族とか友達ではない、まったく関係ない存在なのに、まさに背中を押してくれるという、そんな展覧会だったんですよね。でも、この展覧会に限ったことではなく、アーティストというのはそういう存在なんだと思うんです。ひとりの身体ひとつで何億人もの人を感動させることができるのですから。

山本寛斎デザインの衣装「TOKYO POP」
 
「スターマン」の衣装と英BBC「トップ・オブ・ザ・ポップス」の映像

 
日本の影響を感じられる展示や、山本寛斎やアレキサンダー・マックイーンなどが手掛けたアイコニックな衣装


アーティストや作品の人生に関わる仕事


私は、ソニーミュージックグループで長いことさまざまなアーティストに関わる仕事をしてきました。この会社の入社試験を受けた理由は、自分が役に立てるところで働きたかったからです。エンタテインメントに関わる仕事って、あるレールに乗っていけば順調に成長していけるようなタイプの仕事ではないんですね。レコード会社で言えば、例えば新たにデビューするアーティストは、世の中の人はまだ誰も知らない、理解されていないアーティストなわけで、そこに関わる人々によって時代への刻まれ方や、時代との関わり方さえも変わってくるようなビジネスだと思っています。だから、誰がやっても同じ成果が出るということではなく、例えば100人いたら100人伝え方が違うようにその結果も違ったものになる可能性があるんですね。そのアーティストなり作品なりの人生において、全身全霊で関わり、貢献して、ビジネスとして結果を残していくことが至極当たり前の仕事なのだと思います。もちろん、私個人としてアーティストの好みはさまざまありますが、当然自分が好きなアーティストとばかり仕事をするわけではありません。例えば、自分は特にそれほど好きではなかったのだけれども、仕事で関わることによってそのアーティストを知り、概念がひっくり返されて好きになることはたくさんあります。そこで自分の了見の狭さに気付かされたりするんです(笑)。なんでも売れていればいいってことではないですが、売れているには当然理由があって、その魅力や素晴らしさにたくさんの人たちが魅了されているんですね。また、多くの人に対する強いアピール力が確実にあって、マーケットを大きく動かしていくんです。その醍醐味というかおもしろさもあります。そして音楽全般に対する偏見がなくなるというか、いろんなものの素晴らしさに気付かせてもらえるのもこの仕事の良さだと思います。逆に、すごく多くの人には支持されないかもしれないけど素晴らしいアーティストというのもたくさんいて、その良さを広めたいということも当然あります。一番最初のファンの情熱の強さ、熱量っていうのが全体を左右するっていうことがあって、その感覚は重要なことのひとつだなって思うんです。私たちの仕事は、いろいろなアーティストの人生を引き受ける覚悟を持って、作りだしている人たちの素晴らしさをどう伝えていくかということに対してプロ意識を持っているべきだと思いますね。

エンタテインメントとは


エンタテインメントって“可能性”だと思うんですね。純粋に出来上がった音楽とか作品ということだけではなくて、日々の暮らしの中にエンタテインメントがあるとなしとでは人生が変わるようなものだと思うんです。もっとわかりやすい言い方をすると誰にでも抱ける夢だったりするのかもしれません。もちろんエンタテインメント自体が際限ない可能性なのですが、私たち自身が持つ可能性にガソリンをいれてくれるような、漠然とした力で希望をくれるようなところもあって。なくても生きていけるってよく言われていますが、過去から今まで一回もエンタテイメントがなくなったことなどないんですよね。生活上必須なものではないと言われるのに、どんな状況であっても一度もこの世界から消えたことがないもの、それがエンタテインメントだと思います。

 

 

2017年3月10日~19日の期間中、米国テキサス州オースティンで開催されたクリエイティブ・ビジネス・フェスティバル「SXSW(サウスバイサウスウエスト) 2017」にて



 

 

 

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