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コココラム2016.10.12

対話型人工知能「PROJECT Samantha」β版を期間限定で公開し大反響! 開発秘話と今後の可能性についてインタビュー

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ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)と株式会社言語理解研究所(以下、ILU)が共同開発した人工知能サービス「PROJECT Samantha」β版を、2016年8月4日~15日までの期間限定で公開、期間中約26万人が利用し、多くのSNSやメディアにも取り上げられ話題を呼びました。 β版サービスでは、カイカイキキ所属のクリエイター mebae(めばえ)氏の人気コンテンツ「罵倒少女:素子(もとこ)」をAI化し、世界最大級のイラストSNSサイトpixiv上に登場。「朝っぱらから声かけんじゃねえよ!」「うじうじするな! 気色悪いんだよ!」などと、黒髪の美少女「素子」がユーザーを罵倒するという内容のおもしろさはもちろんのこと、ユーザーとの会話から「素子」が学習・進化し、まるで人と人とが会話を通してお互いの関係を深めていくかのように、問いかけに対する「素子」の受け答えも利用者によって変化するという展開にユーザーが熱中。5000以上もの会話をしたというユーザーが1000人を超えたり、中には15時間喋り続けたというユーザーもいたそう。 今回は、開発を担当したSME コーポレートビジネス マーケティンググループ マーケティングオフィス チーフの井上敦史さんと、ILU 代表取締役で工学博士の結束雅雪さんに、開発秘話やエンタメと人工知能の今後の可能性について聞きしました。

SME コーポレートビジネス マーケティンググループ マーケティングオフィス チーフ 井上敦史さん(左)とILU 代表取締役 工学博士 結束雅雪さん(右)



■[PROJECT Samantha]とは


SMEとILUによる共同事業。ILUが開発した[K-laei]※という対話型人工知能(AI)エンジンで、人格データをAI化することにより、コミック、アニメ、ノベルズなどに登場する架空のキャラクターたちとのコミュニケーションを実現するサービス。

※対話型人工知能[K-laei]について [K-laei]は最新の自然言語理解システム「NLU」とマシーンラーニング「NLP」をハイブリッド化した知識駆動型AI。数百億パターンの感情、感性等を記憶した大規模知識「GAIA」、「URANUS」と、言語理解エンジン群「Semantic Substance Sampler」で構築されており、ユーザーの意図を推論したり、対話の状況から動的に感情が変化するなど、利用者との対話から学習・進化していく。

■「罵倒少女」とは
カイカイキキに所属するクリエイターmebae氏が手がける、美少女が様々なシチュエーションで罵倒するというオリジナルコンテンツ。[PROJECT Samantha]β版では、黒髪美少女のキャラクター「素子」をAI化。キャラクターボイスは人気声優の井上麻里奈さんが担当した。2016年8月10日(罵倒の日)に株式会社KADOKAWAよりイラスト作品集『罵倒少女』(著・mebae)が発売された。


KADOKAWA刊 『罵倒少女』 mebae著


■SME 井上敦史さん×ILU 結束雅雪さんインタビュー


――[PROJECT Samantha]を始めたきっかけは何だったのでしょうか?
井上:私は以前、ソニー・ミュージックパブリッシングという音楽出版会社ででボカロPと呼ばれるクリエイターの著作権管理やプロモーションを担当していたのですが、初音ミクなどがCGM(コンシューマー・ジェネレーティッド・メディア)によってヒットしていくのを目の当たりにした時、これは音声認識技術をエンタテインメントに落とし込んだある種の革命だと感じました。その後SMEで、新しい技術にアンテナを張ってエンタメとのマッチングを探していた矢先、ILUさんの [K-laei]に出会ったんです。
結束:ILUには設立当初から“人とコンピュータの対話”というテーマがあり、人間のようにコンピュータを喋らせるということを研究していました。ところが、研究が進んで実用化に向けて動き出そうとした時、その技術を誰に喋らせたらよいのかという大きな課題にぶつかったのです。例えば、織田信長など歴史上の人物が喋る……江戸時代からタイムスリップしてきたある少女が金融系の情報を喋る……など、いろいろ試作しましたが、どれもピンと来ず、キャラクター開発における技術では埋められない部分の発見と、その難しさを肌で感じていました。SMEさんとの出会いはそんな頃でしたね。
井上:ちなみに本プロジェクト名の由来は、Samanthaという名前の人工知能に恋する孤独な中年男性が主人公のスパイク・ジョーンズ監督の映画「her/世界でひとつの彼女」から来ています。ちょうどILUさんと出会った頃に観たのですが、ILUさんの技術を見せていただいた時にこれだったらSamanthaが実現できるんじゃないかと。映画の中のSamanthaは架空の存在でしたが、我々だったら知らない人と話すより友達やよく知っている人と話しをしたい。実在する友達ではなくても、日頃愛読している漫画、アニメ、ゲームなどのキャラクターなどは、ストーリーを追う中でその背景や性格、どういう冒険をしてきているかということをよく知っており、深く親しみを覚えているという意味では、ある種友達と言えるのではないかと思いました。そんなキャラクターとの対話をSamanthaに落とし込もうと思ったんです。

――β版でAI化されたのは、mebae氏による「罵倒少女」でしたが、決定の理由は?
井上:もともと「罵倒少女」は、pixivやTwitter、コミケで頒布される同人誌で局地的に話題となっていて、熱がすごかったんです。それは、我々レコード会社がライブハウスでアーティストに出会う感覚と同じで、ソニーミュージックのDNAに「素子」が引っ掛かったということです。そして、コミケの文化や、コスプレ、初音ミク、今回ご一緒させていただいたpixivさんに集っている二次創作などに触れていると、ユーザーの皆さんはある原作漫画のストーリー以外に原作とは違った各自のストーリーを持っているということがわかっていました。ですので、「素子」というキャラクターと対話をすることによって、「素子」とユーザーの皆さん各自がそれぞれのストーリーを作っていくことができるんじゃないか思ったんです。

結束:
SMEさんから「罵倒少女」の企画をお話しいただいて、目からウロコ落ち状態になって、即座に「罵倒少女」で進めていこうとなりました。これまでILUでは、例えば医療や金融、飲食店などのデータを人工知能に喋らせるという知識に依存するものばかりを開発してきていたのですが、「罵倒少女」なら罵倒する対話そのものに[K-laei]の力を活用でき、且つ対話そのものが魅力的であるというコンテンツになりうると思いました。我々にはとても考えつかなかったことです。。

――知識に依存する人工知能と「罵倒少女」のようなキャラクターが発言する人口知能とはどう違うのでしょうか?
結束:人間が何か話しかける時には必ず意図があるんです。例えば「元気?」と聞いた時には、文字通りの「元気ですか?」という意図もあれば、「親しくなりたい」という意図もある。それらの意図を10万種類検出できる仕組みが[K-laei]の特徴なんです。知識に依存する人工知能の場合は、知識そのものに魅力があって、例えば「いい物件はあるか?」とか「美味しいラーメン屋はあるか?」など、入力の意図から推論して、求められているゴールにランディングさせることが重要なのです。このため、人工知能の性格付けに差はないんです。ところが「罵倒少女」の場合は、ユーザーの皆さんが求めているのは対話なので、入力されるさまざまな意図が千差万別無限大なのです。無限大の意図に的確に対応できる対話知識の構築は、現時点では不可能です。よっていかにして有限の対話知識を駆使して、無限大に対応できるように見せるかが重要で、この実現には言わば対話知識のコンテンツ化という創作が必須です。これが、技術と技術では埋められない部分の融合になっています。プログラムされた学習付き推論と創作の違いは、とても大きいですね。

――開発で難しかったことはありますか?
結束:人工知能は文字のみで人格を理解していきます。その文字の対話において性格を際立たせる上で、性格のはっきりした「素子」は素晴らしい題材でした。[K-laei]は簡単に言うと人工知能を作るツールで、最終目標からすると不完全ではありますが、意図に基づいて対話をするツール自体は出来ているので、[K-laei]を使って何かに喋らせるということは、実はやろうと思えばすぐにできます。ですが、どういう入力に対してどういう反応をするかというキャラクターの性格付けを決めて実装していくところに、クリエイティビティも時間も必要になってくる。人間って賢いから、対話していて少しでもおかしな部分があると、「これ変、これ『素子』の回答じゃない」と思ってしまうんです。そう思われた瞬間に、手抜き感を与えてしまうので、SMEさんは性格付けについてシビアに判断されていたと思います。
井上:性格付けで言えば、「素子」がツンデレであるということも念頭に置きました。もともと[K-laei]には、対話によって学習・進化し、動的に感情が変わっていくという機能があるんです。それをどう使おうかというところで、「『素子』だったらツンデレだよね」と原作のmebaeさんとも話して決めました。会話を重ねていくと「ツンデレ」の「デレ」の一面が「素子」から見られるようになったりするのですが、それはユーザーが「素子」との会話にのめり込む要因にもなりました。
結束:作り手が思い描いているキャラクターの人格があって、その人格がある動機によって感情を変えてくという、その動機を[K-laei]では自在に選んで設定できます。でも、その機能には向き不向きがあって、例えば株の選択を問い合わせて自分に最適な投資先を教えてくれるロボットアドバイザーなどは、感情を変化させてもおもしろくないし困ったことになる。
井上:感情が変化して、オススメの株が変わっちゃったり?(笑)。[PROJECT Samantha]でのキャラクターとの対話は、単なるQ&Aではなく、本当に友達と喋るようなくだらない会話がだらだら続くことが理想なんです。そうなってユーザーの方の滞在時間が延びていくと、ビジネスチャンスも増えてきます。β版では、ILUさんが持つさまざまな技術や機能の一部しか発揮できていないので、本サービスではもっとすごいことがいろいろと可能です。

――開発やサービスを公開して苦労した点はありますか?

結束:驚きだったのは、コンテンツホルダーさんとの調整が、井上さんたちの仕事の六割ぐらいを占めているんじゃないかと我々には見えたことです。ILUは技術の会社で、コンテンツホルダーさんと直接やり取りをしたことはないので、コンテンツの権利処理に関して膨大な確認や配慮が必要なのだということを知りました。
井上:そこは、餅は餅屋といいますか、我々は普段からアーティストやクリエイター、プロデューサー、コンテンツホルダーの方々と日々やり取りしているので、そのノウハウが活きたかなと思います。ILUさんにご苦労をかけたと思うことは、ユーザーが「素子」に話しかけたことに応えるという機能だけじゃなくて、時々「素子」から話しかけるという機能の追加を、こちらから急遽お願いしたことです。運営側がチョイスした「そろそろコミケが始まるぜ」とか「台風が来たぜ」みたいな時事ネタを「素子」が話しかけるんですが、これは絶対に必要なんだって詰め寄って(笑)、徳島のILUの方を総動員して付け足してもらいました。

 
結束:それから、特定の対象だけに「素子」が罵倒しないように設定するのは大変でした。ある言葉や表現を全体的に制限するということはできるんです。今回も事前に検討して、これはやめようという表現は設定していたのですが、設定後に世の中の動きの中でダイナミックに対応していかなければいけないというケースがあるので、新しく制限をかけるというのが、ILU的には良い実験にはなりました。
井上:これはやめようという設定について言えば、「素子」との対話の中でもう「僕なんか生きててもしょうがない、死にます」みたいな入力がユーザーからあった時、「じゃあいなくなってもいい」と素子が返すようにはしてほしくないという要望がカイカイキキのほうからあったんです。その辺りには細かく対応して、対話の流れや「素子」の感情によっても変わるんですが、「もう死にます」のような入力があった場合、「素子」が「私に許可なく死ぬなんて殺すぞ」って返すようにしたんです。それが、罵倒なんだけど励ましでもあると、スクリーンショットがネットに上げられて評判になりました。
結束:β版公開期間中、26万人もの方に使っていただいたんですが、26万人とは言い換えれば、70年間、毎日毎日新しい人10名と会話をするようなものです。だから、そんな広い世界に対して会話をしているんだっていうことを運営側はわかっていないといけない。だから柔軟に対応しないといけないし、運用の体制がこれからの課題でもあると思いますね。


――ユーザーの皆さまからの反響はいかがでしたか?
結束:Twitterを見ていると、「素子」とどんな会話が繰り広げられたのか、スクリーンショットをアップしている方がたくさんいらっしゃいまいた。罵倒されて嬉しいという方もいれば、素子との会話を支配的にリードできたのが嬉しい方、いかに早く「デレ」させることができたかを自慢する方など、色んな方がいらっしゃいましたね。嬉しかったのは、サービス終了後、ユーザーの方が終了を惜しむツイートをされていたことです。金融ロボットなど知識系サービスが終わっても惜しむ声はなかったですから。また、今回の教訓から、技術的にどの部分を改善すべきかをSMEさんからご指摘いただいたり、この部分はこう変えようと課題が見えたりと、今後の技術開発の計画と優先順位が立てられたのは弊社としては非常にありがたかったです。

――技術とエンタメ、お互いの強みがうまくかみ合った事業だと思いますが、今後はどのような展開を予定しているのでしょうか。
井上:企業が持つ情報をキャラクターに喋らせることによって情報が伝わりやすくなることもあるかと思いますので、タレントをキャスティングするような感覚でキャラクターを起用することができると思います。先ほど話に出た知識依存型人工知能の活用を考えた時、グルメ漫画のキャラクターがグルメ情報を伝えたり、レシピを教えてくれたりなど、求められる知識によっていろんな可能性があると思います。
結束:ウェブブラウザで検索するだけじゃつまらないじゃないですか。同じ内容を調べるにしても、キャラクターが喋って教えてくれるほうが楽しい。ILUは世の中の全てのキャラクターを喋らせたいという目標を持っているので、対話そのものが魅力となるタイプだけでなく、キャラクターに知識を喋らせるタイプもどんどんやっていきたいと思っています。
井上:素子は感情が変化すると性格が丸くなって照れたりするんですが、β版のログを見てみると、そのような流れを恋愛シミュレーションとして楽しんでいるのではないかと思われるユーザーの方もいました。純粋にキャラクターと喋るということの需要は高いと思いますし、それは作品自体のPRにもなるし、いわゆるファンクラブビジネスのようなこともできるということかと思います。

――こちらをご覧の方々へメッセージをお願いします。
井上:新しい技術を使った新しいエンタメを作りましたので、キャラクターの新しい展開を考えている方からのご連絡をお待ちしております。是非新しいサービスを一緒に構築しましょう。
結束:SMEとして新しい技術を使ったエンタメビジネスを開発したいと井上さんに伺った時、なるほどと思いました。音楽コンテンツを含め、そこにAIを絡めることによって、もっとさまざまなエンタメビジネスの新事業を開拓できると思いますので、皆様是非よろしくお願いします。

罵倒少女 Illustrated by mebae (Kaikai Kiki)
©mebae / Kaikai Kiki

©pixiv

PROJECT Samantha
©Sony Music Entertainment(Japan)Inc. 
©Imstitute of Language Understanding Inc.

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